Wellnest Home

PROJECT

暮らす、考える。そして街をつくる。
―ニセコミライプロジェクト #1(後編)―

株式会社WELLNEST HOME
ニセコミライプロジェクト
北海道虻田郡ニセコ町で取り組む、持続可能なまちづくりプロジェクト「ニセコミライ」。ニセコ町役場新庁舎の建設に携わったことがきっかけで、私たちウェルネストホームも“ニセコ町の一員”として参画することとなりました。
ニセコ町が官民一体プロジェクトを始動させた理由―。そこには、町に古くから根付く相互扶助の精神が隠されていました。

町の声から現実が聞こえてくる

観光公害に無計画な開発―。
観光都市ならどこも頭を抱える問題ですが、スキーリゾートNISEKOも例外ではありません。羊蹄山(ようていざん)を中心に、倶知安(くっちゃん)町・ニセコ町・蘭越(らんこし)町にまたがるニセコエリアは、観光客も人口も年々増え続けているからです。
地方が賑わう光景は一見すると喜ばしいものの、人や建物が増えれば二酸化炭素の排出量も増える。この相反する問題こそ、ニセコ町が考える持続可能なまちづくりのきっかけなのです。
「経済が潤えば、このままでもいいんじゃない?」

そんな言葉もちらほら聞こえてきたものの、二酸化炭素が増えればニセコが誇る“観光資源”に影響が及ぶのです。
果てしない大地。雄大な自然が織りなす景観。国内外の人々を魅了するパウダースノー。
これら自然環境そのものが観光資源であり、世界に誇るNISEKOの魅力。にもかかわらず、近年はニセコ町の雪質にも変化が見られるなど、地球温暖化防止は待ったなしの状況なのです。
そこで環境モデル都市であるニセコ町が目指したものは、2050年までにCO₂の排出を実質ゼロにさせること(ニセコ町気候非常事態宣言)。野心的とも思える目標設定ですが“地域の声を聞く”という「まちづくり基本条例」がここにも生きているのだそう。町民アンケートを行うと、核家族化や人口増加に伴う住宅不足という地域課題。そして、過半数の町民が将来的な住み替えを検討しているという問題が浮き彫りになったのです。
「冬でも暖かくて快適な家に住みたい」
「除雪や庭の手入れが大変」
「光熱費を抑えたい」
こんな北海道ならではの冬の負担も、人々から少なからず聞こえてきました。
 
「経済的に余裕がない高齢者の中には、寒い部屋で耐えている人もいるんです」
 
−15度に達する日もあるニセコ町では電気代の高騰を受け、ファミリー世帯の冬場の電気代が月に5~7万円ほどかかることも珍しくありません。私たちがイメージするのどかなニセコでの暮らしから、かけ離れた現実があるのだと思い知りました。
きちんと声を拾い上げたからこそ、見えてきた課題—。
 
従来のような一戸建てや持ち家を増やすといった住宅政策だけでは、町民のニーズはもう満たせない。町民は“ライフスタイルの変化に応じた住み替え”を望んでいるのです。
 
ここからまちづくりの方向性を見いだし、基本構想のコンセプトを住民参加で定めるところからスタートしたニセコミライのプロジェクト。カギとなるのは移住や住み替えを前提に、冬でも快適に暮らせる集合住宅をバランスよく供給していくこと。
 
「自然は人間が皆で使用すべきもの」という有島武郎の思想同様、住まいも皆で共有すればいいのです。

まちづくりはユニゾン

では持続可能なまちづくりを考えるにあたり、風力・水力発電に不向きな土地のニセコ町で、どう二酸化炭素の排出量を削減していけばいいのだろう。大規模な産業がないため、間伐材のチップを燃やしたバイオマス発電や、酪農業から得られる家畜のふん尿を使ったバイオガス発電も難しい…。
 
エネルギーを生むことが難しいのであれば、単純に使用エネルギーを削減するしかない。そこでニセコ町では、新庁舎同様に建物の断熱性能を高めた集合住宅へと舵を切りました。
「戸建て住宅が住まいの中心であるニセコ町において、なぜ集合住宅なのか?」
「なぜ集合住宅だとエネルギー効率がよいのか?」
 
 
こんな町民が抱える疑問や不安を一つずつ解決していくための対話やアイデア出しは、2年以上にも及びました。町民説明会は参加者全員が納得してゼロになるまで続けると決め、既に40回を超えています。
ニセコ周辺には富裕層の別荘も多く、ニセコミライの構想を知れば、所有したいという人々は国内外からたくさん集まることでしょう。けれども、ニセコミライはあくまでもニセコ町民のもの。一緒にまちづくりに参加してくれる町民はもちろん、これからニセコ町に根を下ろして働く人々と私たちが共につくりあげなければ、このプロジェクトに意味はないのです。
ニセコミライが目指す場所は、この土地に根を張り、コミュニティーの一員として生活を営む街。ニセコ町に溶け込みたいと思う人であれば、どっしりと構える羊蹄山のように、この町はやさしく受け入れてくれるはずです。
私たちは視察団と共に、そんな長いながい歴史と対話から生まれたニセコミライの開発予定地に向かいました。
10年後には、ランドリーカフェ・工房・広場といった憩いの場もそろい、小さな商いも始まっているはず。
「ニセコミライの名物ができているかもしれない」「マルシェやお祭りなんかも始まったらいいね」
考えただけでワクワクしてきます。
まだ第1工区の分譲住宅8戸の販売が終了した段階にもかかわらず、こんな夢物語が描けるのは、私たちが箱モノではなく街をつくっているから。街というのは、環境や住まう人のニーズに合わせて、どんどん進化していくものなのです。
ニセコミライの開発予定地であるニセコ町富士見地区は、もともとは農地だった場所。まさか有島武郎氏も、未来の町民が街をまるごとシェアするとは思わなかったことでしょう。
 
※行動や動作が、一致・合致・協調するという意。
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