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DIALOGUE

TALK WITH vol.5 
―芝山さゆり×菊池勇太 まちに根ざし、未来を描く―

人が暮らす最小単位の社会であり、家族の“巣”でもある住まい。TALK WITHでは、そんな心地よい住まいの先に広がる、よりよい暮らしに向かって走り続けるウェルネストホームの銘々がゲストを対談相手に迎え、最良の未来へと繋ぐヒントを見つけていきます。
 
ウェルネストホーム取締役会長 芝山さゆりをホストにお届けする第5回目の対談です。ゲストは、福岡県・門司港でまちづくり事業を仕掛ける、合同会社ポルト代表の菊池勇太さんです。何かにチャレンジするとき、頭で考えるよりも先に手が動き、足が踏み出てきたと話す菊池さん。そんな研ぎ澄まされた反射神経が、芝山と菊池さん二人の共通項です。
今後、共に挑戦するのは、新しい形のオーベルジュ。幸せの原点に立ち返れる場所を作りたいと話します。住宅づくりやまちづくり、地方創生や宿泊施設の経営に関わってきた両者だからこそ描くことのできる未来像を語り合います。

新たな価値観との出会い

芝山:
門司港の駅に降り立った瞬間、開関門海峡と空が目の前に広がる雄大な景色、そして古い港町の面影が漂う大正ロマンの雰囲気に、「この街で生まれ育った人は、どういう大人になるんだろう」という興味が湧いたのを覚えています。2024年の1月でした。
 
菊池:
初めてお会いした日のことですね。生まれ故郷の門司港で僕が経営するゲストハウス、「PORTO(ポルト)」に来ていただきました。
 
芝山:
昭和初期に建てられた歴史的な建物を改装したという宿で、当時の光景が蘇ってくるようなお風呂場や茶室、大広間などを見せてもらいました。見学しながら、「この35歳の若者は、一体全体何をしようとしているの?」と、惹きつけられたのを覚えています。
 
菊池:
僕はというと、築70年をゆうに超えた古い木造家屋の「PORTO」に、それとは正反対の都会的な雰囲気の芝山さんが姿勢良く立ち、僕に興味を持ってくれているのに少しばかり戸惑いました。けれど話すとテンポが早く、知的でスマート。かっこいい経営者だと思いました。
 
芝山:
菊池くんの話を聞くと、一度は東京や県外にも出た後、門司港に帰ってきていくつもの事業を手掛けているんですね。門司港という街が本当に好きで、そこにある文化や歴史を大切にしたいという姿勢に共感しました。

周りの大人に憧れられる街

菊池:
門司港の街を二人で散歩しながら、色々な話をしました。芝山さんは住宅会社の社長(当時)でありながら、ニセコでまちづくりを進めているという話も聞き、芝山さんが作りたいのは商品としての家ではなくて、子どもたちに誇れる社会や未来なんだという目線に驚きました。実は、北九州市も環境未来都市構想を掲げていて、僕自身、地元のデベロッパーである大英産業の街づくり事業部でアドバイザーをしていることから、何か一緒にできないかと考えました。
 
芝山:
商店街を菊池くんと歩いていると、いろんな人が声をかけてくれます。この人は、街と共に生きているのだと感じると同時に、こんなところで子育てできたらいいなあとも思いました。門司港には行き交う人みんなが子どもを見守ってくれるような環境がありました。
小さな店々がカラフルに活動し、街全体が絡み合い、つながり合って営まれている。一方で、かつて貿易や商業で栄えただけに、威光や威厳のようなものが今でもしっかりと息づいている。菊池くんが門司港を愛する理由がすぐに理解できました。
 
菊池:
話しているうちに盛り上がり、数時間後には、小倉でまちづくりをテーマにしたセミナーを開催しようという話になりました。実際に、1カ月後の2月28日には、ウェルネストホーム創業者の早田さんも門司港に来ていただいて、地元の企業経営者や大学教授、代議士、デベロッパーなどと一緒に、地方創生や環境共生を考えるイベントを行いましたよね。
芝山:
私も早田も、行動の根底にあるのは、「ドイツでみてきた未来に残せる持続可能な街を日本につくる」という信念です。その目的に基づいて動いているので、菊池くんのような街を大切にしながら事業をしている人と出会うと、きっと面白い化学反応が起こせるとすぐさま確信できるんです。イベント開催までは、とんとん拍子で進みましたね。
 
菊池:
イベントで早田さんと初めて会った時、この人は1000億円の事業を作るべき人だと思いました。その世界観に共鳴しましたし、職人気質でありながらスマートに事業を組み立ててこられた姿に敬意を感じました。何より、芝山さんと一緒に、難しい課題であっても楽しく取り組んでいるというコンビネーションに感動しました。
 
芝山:
早田が独立をした歳が35歳。それと同じ年齢の菊池くんに会ったことも面白くて、かつての早田を見ているような気持ちになりました。
 
菊池:
三重県伊勢市で育った芝山さんと門司港育ちの僕は、共に海が近いせいか、マインドが似ている気がします。港町イズムというのは確かにあって、父も周りにいる大人の男たちも皆、かっこよかった。「自分より強い者に挑み、仲間や社会のために戦う」という覚悟があったし、それが綿々と引き継がれていると思います。
僕らは、大人になるにつれ、同じ街で生まれた、出光興産創業者にして、小説『海賊とよばれた男』のモデルになった、出光佐三さんの存在を知るんです。門司港という街は誰が作って、どんな人を輩出してきたのかに思いを馳せる。そうすると、カッコイイ経営者というのは、国を作り、守り抜くという意識で、命を懸けて事業を営んでいたということに気づくわけです。そういう歴史を町の人からも聞くんですね。するとやっぱり、「自分もそういう男でおらな、そういう人間でおらな」って思うようになっていくんですよね。

自分をコントロールして習慣を作る

菊池:
僕はよくいろんなことに挑戦しているねと言われますが、頭で考えたり、努力しているわけではないんです。スポーツと同じで、体に刻み込んで習慣化しているだけ。自転車も同じで、座学で学んでも乗られるようにはならないでしょう。何度も乗ってコケているうちに体が覚えていく。ですから、頭で考える時間があれば、一つでも何か商品を売ったり、手を動かす方がいいと思っています。
 
芝山:
そうですね。私も、小学生の頃、毎日1日5時間ピアノの練習をしましたが、その経験があるからこそ、「習慣化させる」ことは得意な方だと思います。
 
菊池:
芝山さんもそうだし、僕もそうですが、チャレンジするメンタリティーが強い人は、習慣化をうまくできている人なのかもしれません。
 
芝山:
そうですね。夕方4時に学校から帰ってきてから夜9時までがピアノの練習時間。小学生の頃ですから、友達とも遊びたかったし、流行りのテレビも観たかった。でも、自分で決めた練習時間を守るため、修学旅行へも紙に書いた手作りの鍵盤を持っていきました。
菊池:
継続する意思は、理屈やテクニックではなく、もっと深いところで刻み込ませる、ということかもしれないですね。早田さんも自衛隊出身の左官職人でしょう。やはり、何かに挑むメンタルというのは、体に叩き込まれているんだろうと思います。芝山さん同様、体で覚えている人は強いですね。
 
芝山:
考えるのも大切。でも私は行動でしか見えてこないことがあるからこそ、挑戦は行動と考えています。
 
菊池:
神経系の研究が今すごく進んでいて、特にロボット分野の研究で神経の謎がかなり解き明かされてきているそうです。
プロのスポーツ選手で相当訓練してきた人は、競技中、脳は無意識的に活動をしていると考えられています。
例えば、2014年にプロサッカー選手のネイマール氏が参加した研究結果によると、彼はドリブルをしている時、脳みそが活発に動いているかというとそうではなくて、脳は逆に活動範囲を狭め、省力化しているそうです。その結果、他の情報を集められるようになっている。つまり、足元でドリブルをするということは考えなくてもできるから、誰にパスを送るかということに脳が使えるということです。

住宅会社だからこそできるまちづくりを

菊池:
2024年10月に、ニセコで進むまちづくりを視察させていただきました。二セコという町が持っている文化や思想、自然や食、緑、水の豊かさと、ウェルネストホームが持っている住宅性能、ソフトとハードの両輪で街が作られている姿に感動しました。
 
芝山:
忙しい中で時間を作って北海道まで来てくださり、熱心に見学してくださったこと、こちらも嬉しかったです。
 
菊池:
ニセコの視察を経て、泊まって住宅性能を確かめるだけのモデルハウスではなく、その土地と共に、暮らしそのものを体感できる場所がもっと増えたらいいと思うようになりました。その一つの手法がオーベルジュ。オーベルジュは、地方や郊外にある、宿泊施設を備えたレストランを言いますが、そうした事業こそ、ウェルネストホームがすべきではないかと思ったんです。でも話をしたら、芝山さんにはすでにそうした発想がありましたね。
芝山:
私自身、7〜8年ほど前からオーベルジュに関心を持ち、全国各地で100カ所を超える施設を訪れ体験してきました。ホテルとは異なり、自然に溶け込むように作られたオーベルジュには特別な居心地の良さがあります。そうした環境で、その土地ならではの食事をいただけることがオーベルジュの魅力ですね。ニセコでも、地元で採れる美味しい野菜がたくさんあってそれを紹介していきたいと思っています。
 
菊池:
ちょうど今、僕らも福岡・宗像でオーベルジュを作ろうと動いていて、プロジェクトを立ち上げたところです。その土地を知ってもらえるオーベルジュは、土地の価値さえもあげる力があり、地方創生の一翼を担うことができると思っています。
 
芝山:
なんでも行動で示す、菊池くんらしい動き方ですね。
各地のオーベルジュを見てきたからこそ思うのですが、建物は古民家を再生しているところも多く、味わいがあるのだけど、やはり寒さや暑さの問題がありました。オーベルジュの経営者は徹底して食にこだわっているので、「食」の原価率が高過ぎて、「住」にまでコストをかけられないという課題もあるのだと思います。
 
菊池:
ニセコでウェルネストホームが建てた賃貸マンションを見た時、大きく取られた開口部から、綺麗に羊蹄山が見えました。こうした場所で朝コーヒーを飲んだり、夜はお酒を飲んだりしたらどんなにいいだろうとイメージが湧きました。全面ガラス張りでも「暑い、寒い」がないのがウェルネストホームの強さ。1泊2日の宿泊でそうした良さも十分伝えられるでしょう。
 
芝山:
その土地の魅力が詰まったオーベルジュに宿泊しながら、寒い暑いのストレスのない快適な空気を感じてもらえるような施設を作りたいですね。オーベルジュが旅の目的になってくれたら嬉しいです。

100年後も空気がきれいな世界に

菊池:
今はすごく面白い時代で、時代の転換期にあると思います。どんな転換かというと、「空気に値段が付く時代になった」ということ。つまり、きれいな空気にこそ最も高い価値が置かれる社会になったということです。これまで僕らの社会は、環境を破壊し過ぎてきました。
水もそうです。もともと水は人類の誰でもアクセスしやすいものでした。けれど人口が増え、資源をめぐる戦いが生まれたことで、この30年で水に対する価値は大きく変わりました。そして今、空気までもがそうなっていくということに、ようやく人々が気付いてきたのだと思います。
 
芝山:
世界では当たり前に導入されている炭素税ですが、日本では税率が低く、対象者も限定されています。28年から国内でも本格的に課税が始まるので、環境への意識改革は加速度的に進むと思います。
 
菊池:
われわれ人間が生存しているのは、おいしい空気のお陰だとようやく自覚し始め、明確にルールを整備し始めているのが、今の社会の流れです。
都会の高級レストランではなくて、おいしい水、おいしい空気で育ったニセコの食材や料理に価値がつき始めているのが、今の社会の面白いところだと思います。
芝山:
資源は無限にあるものだと思ってきたから、環境にやさしいことをすることは特別だと思われた時代が長くありました。環境に配慮することは、意識が高い人だけが携わることだと思われてきましたが、それが大きく変わっていきますね。
 
菊池:
お米が買えなくなったり、キャベツが尋常じゃないほど値上がりして、初めて人類は、「あれ、食べ物って無限に作れないんだ」とか、「おいしいものを作る人が減ってるんだ」と自覚するようになりました。一次産業の従事者の平均年齢は60代を超えています。日本でも食のインフラを守る人々に経済的価値が付いてこなかったから、後を継ぐ人がいなかったけれど、これから急速に逆転していくと思います。
 
芝山:
こうした一次産業は、AIに変われるものでもありませんから、生産者の皆さんの価値はさらに見直されていくはずですね。
 
菊池:
森林を維持し、海を守り、おいしい空気やきれいな水を生み出す仕事に携わる人々の価値が劇的に見直されていくはずです。この社会変換をいち早く体験し、エンターテインメントの要素も含みながら、押し付けがましくなく、「ああ、楽しい」と自然に紹介できるのが、オーベルジュだと思います。
芝山:
食には旬があって、「走り」「旬」「名残」という言葉もありますが、「走り」つまり初物が出せるのは、地域に根付いたオーベルジュならでは。その地元で一番おいしい食材を、最短で提供できるから輸送費もかかりません。そう考えたときに、食べることは生きることなんだと気づきます。私たちは、土地に生かされ、命をいただいているんですよね。
 
菊池:
ESG※やカーボンクレジットの取引でCO2の排出量をとにかく減らすべく、全世界が動いていきます。この偉大な転換に気づけていない人でも、1泊2日の宿泊だけで何かが変わるかもしれない。居心地がいい、ご飯がおいしいということは、人間のもっとも根源的な幸せですから。
きれいな空気を守ってくれる芝山さんや早田さんをヒーローにする社会にしなければいけないと僕は思います。100年続く家と100年後も空気がきれいな世界を作る人たちです。
※環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点から企業の持続可能性や社会的責任を評価する考え方。
 
芝山:
「空気を守ってくれる人」というのはきれいな言葉ですね。そうであり続けたいと多います。
 
菊池:
応援しています。
#経営者 #地方創生 #行動 #継続 #環境配慮
PROFILE
株式会社ポルト 代表
菊池勇太

1989年生まれ、福岡県門司港出身。北九州市立大学を卒業後、環境コンサルティング会社やマーケティングリサーチ会社を経て、2018年にUターンし合同会社ポルトを設立。築70年超の建物を活用したゲストハウス「PORTO」や飲食店を手がけるほか、耕作放棄地で育てたレモンの商品化、門司港を舞台にした映画『門司港ららばい』の自主制作など、地域の魅力を生かした事業を次々に展開。地元企業・岡野バルブ製造の取締役兼新事業開発本部長、大英産業株式会社街づくり事業本部のアドバイザーも務め、持続可能な地域活性化に取り組む門司港の「顔」的存在として活動している。

WEB Instagram
PROFILE
株式会社WELLNEST HOME 取締役会長
芝山さゆり

小学校の音楽教師、専業主婦を経て、娘の夢を叶えるために起業。独自の教育論で人財育成や女性の起業支援を手がける。2017年、未来の子どもたちのために、住宅を通して持続可能な社会をつくるウェルネストホームの社長に。試しに住める“試住体験”を導入するなど、女性目線で事業を展開し、6年間で業績を400%アップさせ70億円企業に成長させる。2024年、会長に就任。2024年よりWELLNEST R&Dの専務取締役も兼任し、最新の環境配慮型リゾート事業のプロデュースや、再生可能エネルギーの活用活性化のための脱炭素改修事業の普及に努める。

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