Wellnest Home

INTERVIEW

VOICE FROM vol.4
―今泉太爾 未知なるものに挑む―

株式会社Haiot代表取締役
今泉太爾
ウェルネストホームが目指す、未来の子どもたちのために向けた持続可能な暮らしとまちづくり。そこで私たちと理念を同じく、丁寧な時間と暮らしを育むヒト・モノ・コトから、最良の未来へとつなげるための共通項を見つけていきます。今回お話を伺ったのは、株式会社Haiot代表取締役であり、東京大学大学院工学系研究科学術専門職員を務める今泉太爾さん。ウェルネストホームの住宅でも導入している、自動制御HEMS (ホームエネルギーマネジメントシステム)であるHaiot System(ハイオシステム)の開発者です。千葉県で不動産会社と工務店を経営、ウェルネストホームの原型となる低燃費住宅のモデルを創業者の早田宏徳とともにつくりあげたキーパーソン。カーボンニュートラルで持続可能な未来の実現に果敢に挑む今泉さんに、その原動力や思い描く未来を語っていただきました。

盟友との出会い

美しい銀杏並木と静かな庭園が広がり、アカデミックな雰囲気が薫る東京大学本郷キャンパス。ここのサステイナブル建築を専門とする前真之先生の研究室で、2023年から学術専門職員として自動制御システムの研究に挑んでいる今泉さん。
新しいことに果敢に挑むベンチャー経営者であり、最先端のAIプログラミングに取り組む技術者でもあるが、おだやかで物腰の柔らかい人だ。
千葉の浦安で、家業の不動産会社の二代目として経営に携わっていた今泉さんが、省エネ建築の開発に身をのりだしたのは、ウェルネストホーム創業者の早田との出会いがきっかけだった。
それは、もう17年前に遡る。当時、工務店向けのコンサルタント事業をしていた早田のセミナーをたまたま聞きに行ったのが、交流のはじまりだった。
それまで、今泉さんは、不動産屋として家を販売するとき、できるだけ良いものを届けたいという想いから、施主の予算ギリギリでローンを組んで、住宅を買ってもらうということを当たり前にやってきた。しかし、早田からセミナーで伝えられたのは、子どもの教育費など、将来の環境変化を想定した適正な価格で買ってもらうことや、ローンの組み方や保険の見直しまでを、トータルで親身に対応したほうがいいという話だった。「良いものを買ってもらえればいい」と思っていたが、「良い」の定義にも色々あることに気づくきっかけとなった。
「目線が違ったことがショックでした。僕は『家』を見ていたけれど、早田さんは『人生』を見ていたんです。自分の考え方を変えるために、早田さんにお世話になりたいと思いました」。
今泉さんと早田の二人三脚が始まった。

未来を切り拓く

早田との出会いから、自身の会社のアップデートの必要性を感じた今泉さんは、すぐ実行に移した。そして、今泉さんの価値観を大きく変えるさらなる出会いは、2008年、早田に誘われて赴いたドイツにあった。
できるだけ良い素材を使い、お客様に寄り添ってきた今泉さんはこれまで自分の提供してきた家は「よい家」であるという自負はあった。しかしドイツで同規模の工務店経営者から話を聞いたときに、返す言葉がなかった。
「ドイツでは、環境負荷とか、エネルギーの持続可能性とか、一段上の話をされたのです。持続可能性がないものは良くないから、バランスを取ってやるのが自分たち工務店の仕事だと言われて。ショックでした」。
自分の視野の狭さを感じて、帰国後にドイツで見てきた省エネ建築を日本でも建てようと決意。しかし、全国のハウスメーカーを探しても、望むような省エネ建築を建てられる会社や、ビジョンを共有できる会社は見つからなかった。
「ないなら、自分でつくってみよう」と、早田とともに、自分たちで開発することに舵を切った。6世帯分の土地を買い、現地で聞いた内容をもとに、日本で手に入る素材の中から近いものを選び、国際的にみても持続可能性が評価される家を造り上げた。採算は正直度外視した試みだったが、日本でもつくれることが分かったのは、大きな第一歩だった。

決断と挑戦

早田との関係性について「考え方を広げてくれたのが早田さんでした。何かあったら相談に乗ってもらい、私からも良いと思ったことは積極的に提案しています」と、今泉さんは語る。
そんな今泉さんが現在専念しているのが、家のエネルギー消費量を最適にするために設備を自動制御する「Haiot System(ハイオシステム)」の開発だ。きっかけは2017年の自身の家づくりを始めた頃、社会的には第3次AIブームで、スマートスピーカーや、音声認識ができるデバイスが出てきていた。
それまで不動産や工務店など、家づくりの仕事を二十年ほど続けてきたが、これらのAIの登場は、何かが変わる大きなターニングポイントになりそうだと直感。まず自宅をスマートハウスにしようと試みたが、当時の技術ではむずかしく、出来上がったのは思っていたものとは全然違うものだったという。その頃から、今泉さんは、住宅のスマート化に興味が湧き始め、日本にはまだ事例が少なかったので、海外の文献から多くを学んだそうだ。
「ヨーロッパでは、地球温暖化や脱炭素という大きな課題にみんなが向き合い、それぞれの業界の中で何ができるか考えて動いている、という印象でした。そういう風にしていかないと、問題は解決できないと思うのです。私は住宅業界で、エネルギー負荷をできるだけ下げて、再エネ比率を高めていきたい。早田さんに相談したら、まずはモデルハウスでやってみようという話になり、『Haiot System』の実証実験が始まりました」。
「何かを本気でやるときには、兼業や、片手間でやってはいけない。人に言う前に、自分でやらなければ」と常々感じてきた今泉さん。エネルギーマネジメントの自動制御システム開発は、国内で誰もやっていないというだけあり、難易度の高さは容易に想像できた。ちょうどデフレからインフレに変わる時代の大きな節目のなか、17年間社長を務めた不動産業と工務店の役職を弟に引き継ぎ、自らは未知の開発研究に挑むことを決めたのだった。
そうして、2023年、株式会社Haiot(ハイオ)を立ち上げた。

子どもの未来のためにできること

今泉さんが中心となって開発を続けている「Haiot System」は、IoT技術を活用して、家の中で使うエネルギーを自動制御することで、エネルギーの消費量を最適化しながら、家を快適に保つシステムだ。その基礎的な仕組みは、すでにウェルネストホームの住宅で導入が始まっている。
各家庭がコツコツ省エネに取り組むことはできるが、人力だと限界がある。今世界で求められている省エネは継続的な削減で、それにはやはり機械化が鍵となるのだ。
冷房は、再生エネルギーと相性がいい。真夏の暑い日には太陽が照りつけているため、冷房を多用しても太陽光を使うことで解消ができる。一方、寒い日は曇りや悪天候の冬なので、太陽光はいかせないため、断熱とエネルギーマネジメントが重要になる。こうしたことは自明だが、日本では大手企業をはじめ、誰も手をつけていないのだ。顕在化してからでないと動かない社会の構造だからこそ、先行して研究する研究機関と、コツコツ挑戦するベンチャーが必要なのだという。
「居住者の負担をできるだけ下げながら、快適性を担保しつつ、エネルギーマネジメントをして社会全体のグリッドの調整力をあげていくということを『Haiot』で実現したいと考えています。5年後くらいにはすごく必要になる技術ですが、大手がやらない理由はそれなりにあるので、ものすごく難しい。だけど、せっかくやるなら難易度が高くても必要な仕事をやりたいので、挑戦しがいはあります」と話す今泉さんの目は輝いていた。
できたら、きっと社会のためになる。いつか必ず必要なときがくる。そう確信して、自ら学び手を動かして、最難関なシステム開発に挑戦している今泉さん。その原動力はどこから来るのだろうか。
「今9歳の息子がいます。子どもの将来に、できるだけいい環境をのこすのは、僕らの義務だと思っているので、自分の仕事の範囲で、できることはやりたいと思っています。
そう考えるようになったのは、ドイツへ行ってから。先のことを見据えて、『今何をしなきゃいけない?』『今できることは何だろう?』と、行動する彼らに感銘を受けました」。

新しい風が吹く社会へ

世界各国が地球温暖化に対する目標を掲げて、さまざまな取り組みが行われているなか、2050年までに「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言した日本。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から、植物や森林管理などによる吸収量を差し引き、全体としてゼロにすることで、それぞれの業界での取り組みに期待がかかる。
今泉さんもまさに、カーボンニュートラルで持続可能な未来の実現に向けて、全国を回って講演をし、地方自治体や企業ともつながりながら精力的に活動しているが、課題に感じているのが、日本の会社組織の構造だという。
「もうちょっと未来に対して、世代交代を促していくような仕組みが必要だと思っています。デフレ時代の経営者は、地位にぶらさがる傾向がありますが、どんどん次の世代の人たちに預けていったほうがいい。本来力のある優秀な人が日本にもいっぱいいるので、そうすることで、世の中も良い方向に変わっていくと確信しています」と今泉さんは力説する。
脱炭素においては、社会全体でも必要性は分かっている。だが、短期的にみて、ビジネス的に大きな利益が見込めなければ、支援や賛同をもらいにくい現状があるという。それでも、早田や今泉さんのように挑戦を続ける人もいるが、海外に比べるとまだまだ少数派だ。
それでも、悲観はしない。「挑戦すればうまくいく人が、もっと世の中にはたくさんいるはず。今の日本には、チャレンジする人を虐げたり、損するように見られる傾向があるのが、残念です。ダメな理由を探して、すぐに切り捨てるのではなく、ポジティブに変換して、可能性があるものを大切に育てていく。新しい挑戦に対してもっと許容する社会になると、ベンチャーにトライしたり、挑戦する人が増えるのではと思っています。みんなでどんどん挑戦する社会に変われたら、素晴らしいと思います」。
昨年は、日本にはまだ少ないゼロエネルギーの高性能賃貸住宅を建て、自らオーナー業もしている今泉さん。2050年のカーボンニュートラルを達成するためには、これから建てる家は脱炭素住宅であるべきなのに、いままで業界で挑戦する者がほとんどいなかったからだ。
「ウェルネストホームが目指しているのは、2050年の日本に当たり前にある、省エネで家族が健康で快適に暮らせる、100年を紡ぐ家。2050年以降にあるべき家を、今から建てることで、生涯のなかで、あのとき選んでよかったなと思える家をつくっています。デフレが終わり、インフレに戻った今。一生ものの家を、時間をかけて建ててほしいのです」。
自らの信じる道を、仲間とともに切り拓く。今泉さんの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
PROFILE
株式会社Haiot 代表取締役
今泉太爾

千葉県で不動産会社と工務店を経営、築年数で価値が決まる日本の建築評価制度に疑問を感じ、世界基準のサステイナブル建築や省エネ住宅の普及を目指す活動を開始し、Wellnest Homeの創設に参画。社会貢献活動として、日本エネルギーパス協会を設立し、国土交通省や地方自治体等で住宅の省エネや再エネに関する専門委員を歴任。現在は次世代型EMSを開発するために株式会社Haiotを設立。2023年からは東京大学大学院工学系研究科建築学専攻学術専門職員に就任、産学連携によるイノベーション創出やその社会実装により、カーボンニュートラルで持続可能な未来を実現することを目指している。

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