Wellnest Home

PROJECT

まちづくりのいま。
―ニセコミライプロジェクト #2(前編)―

株式会社WELLNEST HOME
ニセコミライプロジェクト
ウェルネストホームが共創して取り組む、官民連携プロジェクト「ニセコミライ」のいまを追う本シリーズ。第二回となる今回は、ニセコ町の市街地に隣接する9haの敷地に新しい街区(まち)を…と青写真を描いてから丸6年。記念すべき1棟目となる「モクレニセコ」の完成が迫る中訪れた、2023年秋の視察から見えてきたプロジェクトのあらまし。そして、モクレニセコのプロトタイプとなる集合住宅 「Niseko Bokka(ニセコボッカ)」についてお伝えします。

方向転換の糸口となった自然との共生

いまから振り返ること6年前。ニセコミライのプロジェクトを大きく動かすことになったのは、ウェルネストホーム創業者である早田がアドバイザーとして参画したニセコ町新庁舎の建設でした。
当初は最新鋭の設備を設けた新庁舎が検討されていたものの、建物の躯体は一般的な公共建築物の性能と変わらず。脱炭素を視野に入れた70年後、80年後の子どもたちの未来へ繋ぐという視点には欠けていました。
「新庁舎は、万が一の時に人々の生命を守らなければいけない場所でもある」。そう考える早田は、地中熱ヒートポンプをはじめとする電化設備だけに頼った建物ではなく、断熱性能を徹底的に高め、灯油やLPガス、電気とエネルギー源も多様化しておくべきだと新庁舎計画への提言をしたのです。
そのわずか2週間後となる2018年9月6日の未明。
北海道胆振東部を最大震度7の地震が襲い、2~4日間にわたり北海道全域が“ブラックアウト(発送電システムの全系崩壊が生じ、大規模な停電が起こること)”という未曾有の出来事に見舞われます。
翌年、2019年の春――。ブラックアウトの経験を踏まえ、ニセコ町はSDGs未来都市に相応しい新庁舎の設計変更へと大きく舵を切りました。−10℃以下にもなる12月中旬までも暖房なしで過ごせる新庁舎が着工されることとなったのです。
その後、町が策定した「SGDs未来都市計画」の根幹をなすSGDsモデル地区(現・ニセコミライ)の住宅地開発の基本構想を、早田が代表理事を務める一般社団法人クラブヴォーバンが受託。早田はニセコ町に何度も足を運び、人口が毎年微増するニセコ町の住宅不足を解決するためのプロジェクトの中核メンバーとして活躍し、ウェルネストホームの知見と技術が活かされました。
プロジェクトの検討にあたり行った、住民向けのアンケート調査やテストマーケティング、数多くの住民参加型の説明会。これらの中から徐々に浮かび上がってきたことは、単なる住宅不足の解決だけではなく、冬場の高額な光熱費、高齢化世帯における除雪問題、核家族化の進行といった生活に直結する困りごとの数々をも解決しなければならないことでした。

街区づくりは、町民の想いを受け継いで

コロナ禍に突入した2021年の夏――。プロジェクトの開発許可と農地転用の許可がおり、羊蹄山が眼前に広がる9haもの広大な土地がニセコミライの舞台となりました。「街の発展のために必要ならば使ってほしい」という農業を続けられなくなった地主さんの想いを、私たちは心に留めておかなくてはなりません。
土地の取得と時を同じくして市街地近郊で、高性能集合住宅のプロトタイプとなる建物の建設が行われましたが、ニセコ町という雪深いエリアでの設計は未知の領域です。
アパートに家庭用の6畳エアコンを設置するのみで、果たして−15℃にも達する厳しい冬を乗り越えられるのだろうか?
2mを超える雪の重みに耐えられるのだろうか?
SDGsモデル地区のプロトタイプとして建設された集合住宅は、いわば私たちが抱いてきた想いを紡ぐ1棟。技術はすでに確立されているものの、不安や疑問がなかったかといえば嘘になります。
そこで、ニセコ町とドイツで二拠点生活をおくっていたプロジェクトメンバーである環境ジャーナリストの村上敦さんは、プロトタイプの集合住宅を、この町で暮らす際の拠点として選択。実際に暮らしながらデータを計測し、居住体感から改善点を探ることとなりました。
この建物はニセコ町の住宅不足に対応するため、ニセコ町内にある企業の従業員寮として建てられましたが、ここで暮らした従業員から「他の物件に引っ越したところ、いかに自分が恵まれた環境で暮らしていたのかが分かった…」という声が届くようになりました。高気密・高断熱を体験すると、その暮らしを当たり前だと感じてしまう。そんな住人たちの感想から、私たちは改めて自分の仕事に確信を持つことができたのです。
2023年の夏――。プロトタイプの集合住宅と目と鼻の先に、第二弾となる高性能賃貸住宅「Niseko Bokka」が建てられました。高性能集合住宅のフラッグシップモデルでもあるこの住宅のコンセプトは「家群―イエムレ」。1軒1軒の家が集まり群れているイメージで、大地に佇む戸建てが絵になるニセコ町に似つかわしい集合住宅です。
プロトタイプの集合住宅で暮らしながらデータの計測を行なっていた村上さんは、音環境や匂い、温度や湿度の状況を把握するため、完成と同時にNiseko Bokkaへと引っ越しました。2024年の初頭までニセコミライに生かすためのデータを暮らしながら取り続けており、感じたことがあれば欠かさずフィードバック。すべての部屋に移り住んだからこそ知り得た実体験もデータの一部として、ニセコミライに反映されています。
現在、Niseko Bokkaは建設から1年が経ちましたが、入居の問い合わせは絶えることはありません。ニセコ町は深刻な住宅不足に加え、転勤などでやってきたアッパーミドル層などが満足する住宅が少なく、Niseko Bokkaのような集合住宅が求められているのだと改めて感じています。

おだやかな町に似合う、静けさと暖かさ

牧歌的な風景に似合う、板張りの外観。北海道特有の建築様式である玄関フードから一歩建物の中に入ると心地よい暖かさに包まれますが、この日の日中気温は約10℃。この玄関から大きく吹き抜けになった共用部の暖房が6畳用エアコン1台のみで賄われていることは、大変驚かれることです。
黒で統一された共用廊下を探訪すると、ひときわ目を惹くのは2階の踊り場に設えられた大きな窓。窓枠を額縁に見立てて映し出された田園風景は自然が生み出した絵画のようで、つい足を止めてしまうほど。
そしてNiseko Bokkaを視察した人々が何より驚くのは、モデルルームとしても使われている約110平米の一室に入った瞬間です。やわらかな無垢材の床、大きく取られた窓。陽光が燦々と降り注ぐ室内は、初冬であることを忘れさせてくれるほど暖かいのです。
高性能集合住宅のプロトタイプ第一弾となる集合住宅に、フラッグシップモデルである第二弾のNiseko Bokka。2つの集合住宅から得られた暮らしの感想や、プロジェクトメンバーが取得したデータを元にニセコミライでの建設もついにスタートし、2024年の春には入居も始まりました。
そんなニセコミライで記念すべき1棟目となる分譲棟は、木造レジデンスの略から「モクレニセコ」と名付けられることに。
長い年月と多くの方々の協力により進みつつある、ニセコミライプロジェクト。私たちが目標としている持続可能なまちづくりは、一歩ずつ着実に動き出しています。
 
 
♯後編につづく
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