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まちづくりのいま。
―ニセコミライプロジェクト #2(後編)―

株式会社WELLNEST HOME
ニセコミライプロジェクト
ウェルネストホームが共創して取り組む、官民連携プロジェクト「ニセコミライ」のいまを追う本シリーズ。前編に引き続き、2023年秋に訪れた視察の中から現地の状況をお伝えします。
 
ニセコミライの街区(まち)を訪れたのは、記念すべき一棟目となる分譲棟「モクレニセコA棟」の完成より半年前のこと。2030年のプロジェクト完成に向けて着々と工事が進められる中、9haという見通しのよい街区内を歩きながら、新たな息吹を感じる街の姿を確かめていきます。

町の生業を風景に落とし込む

「モクレニセコは、エネルギー的には究極の建物です」。
プロジェクトメンバーである環境ジャーナリストの村上敦さんがそう胸を張って言えるのは、数年に及ぶ二棟のプロトタイプ集合住宅での実際の暮らしとデータの積み重ねがあったため。とはいえ、1部屋の広さが30~60㎡のプロトタイプ集合住宅に対して、モクレニセコは80~100㎡。「エアコン1台でこの広さの集合住宅の暖房をカバーするのは、かなり挑戦的ですよね。外気温が-20℃を下回ったとしても、室内からの熱は最小限しか逃げないように設計しています」とプロトタイプ集合住宅における知見は、間違いなくモクレニセコに凝縮されています。
2023年の秋――。
Niseko Bokkaから車を走らせること数分。前日の斑雪で少しぬかるんだニセコミライの街区に降り立つと、この季節としては珍しく晴れあがったからか、いつもよりも拡がりを感じます。
この土地を取得したときには草木が生い茂る荒野だったものの、造成を進める中で、着実に街の様相を帯びてきたニセコミライ。全体の完成は2030年と、まちづくりはまだまだ続いていきますが、第一棟目となるモクレニセコA棟が棟上げされたことで、街が動き出す実感が湧いてきました。
モクレニセコA棟の外壁は、普段ウェルネストホームで使われている色とは異なりますが、それは町民を交えて色味について議論を重ねたため。
北海道らしさとは、ニセコらしさとは…。
当初、早田をはじめとしたプロジェクトメンバーは、そんなことを考えあぐねていたのですが、ニセコミライの街並みをつくり出すにふさわしいデザインの拠り所がなかなか見つかりません。そこで、町民とも対話を重ねる中で見えてきたものが、明治期にはじまった酪農や農業で使われるレンガのサイロをイメージした黒と弁柄色の組み合わせ。ニセコミライの風景は、町の主要な生業を落とし込んだともいえるのです。

すべてはニセコ町、そして世界の未来のために

視察に訪れたこの日も、ニセコミライへのはじめての入居に向けた工事の真っ只中。中でも大きく動いていたのは、モクレニセコA棟の隣で行われていたソーラーカーポート建設です。
 この場所は太陽光発電による電気の供給源であり、プロジェクトでも新しい取り組みのひとつ。これまでニセコエリアの積雪量に耐え得るソーラーパネルがなかったものの、積雪2.3mを許容する製品が開発されたため、ニセコミライでは世界初となる2mを超える豪雪地帯での平屋根への中型ソーラーパネル搭載を導入することとしました。
私たちがこのようなハードルの高いことに挑戦する理由は、未来へとバトンをつなぐため。「ここでチャレンジしなければ、ニセコにたくさんある公共施設やホテルなどの平屋根の建物で、除雪しないでも機能する太陽光発電を活用しようと思う人が出てこないですよね」と、ニセコミライがSDGs未来都市のモデル事業であることを村上さんも強調します。
2050年にはCO₂排出量実質ゼロを目指しているニセコ町。ニセコミライという街区は、単に住みよい集合住宅を建てるプロジェクトではなく、世界に向けた持続可能な都市のモデルを生み出すプロジェクトです。
ニセコ町のような豪雪地帯でのソーラーパネルの導入は世界初の挑戦ですが、この成功が持続可能な開発の大きな鍵になること。そして、再生可能エネルギーの可能性を広げることだと信じて、新しいチャレンジに立ち向かっています。

まちづくりのキーワードは共存

モクレニセコA棟の建つ街区の入り口付近から、遠くに見える目印までの約1haほどが第一工区。2025年末までにはこのエリアの工事を終わらせ、約80人が暮らせるよう工事を進めていきます。

ニセコミライの物件は、分譲棟、賃貸棟、別荘などに大きく分かれますが、その配置計画の中心となるのは町のシンボルである山々です。地元の人たちにとっては身近な存在ですが、ニセコ町を訪れる人たちにとっては得難い風景。分譲棟からは羊蹄山が眼前に広がる眺望を、賃貸棟からはニセコアンヌプリが見渡せるよう配置を決めました。ただ、そこには“共存”というまちづくりの課題があったことも事実です。
ニセコミライの敷地には古くからある団地が隣接しているのですが、ここの住民もまた、山々の眺望を享受してきた人々です。このプロジェクトが望んでいることは、皆が心地よく暮らせるまちづくり。団地からの眺望をそのままに区画を整備することも大切な仕事のひとつでした。
そこで私たちは、高低差を上手く利用することで、団地に住まう人々の景観を遮ることなく街区を整備することに。街区を遠くから眺めてみると団地は一段小高いところにあり、その下にニセコミライが拡がっています。

この高低差を利用したまちづくりは街区の内外だけでなく、街区内でも上手く取り入れられています。現状の様子を確かめようと、街区のさらに奥で行われている造成工事の場所まで足を進めてみると、平地の先に現れたのは緩やかな下り坂。坂を下りきった場所に広がるのは、別荘などの予定地である、もうひとつの区画です。

目線を上に移すと、いましがた降りてきた坂道には10mほどの高低差があるため、モクレニセコA棟をはじめとした街区の様子はまったく感じられません。街区内でもあえて低い場所にそのエリアをつくることで、プライベート感を持たせることもできるのです。
分譲棟、賃貸棟、別荘などと、街区内でもさまざまな暮らし方があるニセコミライ。だからこそ、以前より暮らす方々の生活も加味してプロジェクトを進めることも、未来のまちづくりの在り方だと私たちは考えています。

ついに産声をあげた街区のいま

広い街区内の奥には畑が広がっていますが、ここは街区内に複数設ける予定のコミュニケーションの場のひとつ。「ニセコミライの住民が一緒になって家庭菜園をやりたいなと。今年の秋に子どもたちを交えて収穫祭を行ったのですが、いまの子どもたちはこういう作業をやったことがない子が多いから楽しいんですよね」と、村上さんをはじめとしたニセコ町で暮らすメンバーは、新たなコミュニティの下地も着実に育みつつあります。

そして、いま現在は切り株でつくられたベンチが置かれているのみの畑横のスペースも、いずれは街区の共有広場として活躍するコミュニュケーションの場です。このベンチは街区の造成時にどうしても切らなければならなかったトドマツの木の名残で、かつて薪材として植えられたもの。私たちはそのままの自然を残した状態で開発を進めたいと思っているため、ただ単に切り倒すだけでは……と思いついたものが、環境ジャーナリストである村上さんが講師となり、木の成長や伐採について学ぶ中学生向けのワークショップでした。
当日は子どもたちと一緒に日本古来の伐採方法である「新月伐採」でトドマツを伐り、月の満ち欠けによって木の中の水分が変わることや、新月期に伐った木は腐りにくく丈夫な木材になることなどをレクチャー。この土地の歴史ともいえるトドマツは、子どもたちの体験を経て共有広場のベンチへと生まれ変わったのです。
ニセコミライが完成すると約450人が街区で暮らすこととなりますが、視察時点での進行具合は、ようやく第1工区の様相が見えてきたところ。2030年の完成を目指しているので、ゆっくり進めている時間はないというのが正直な気持ちです。
とはいえ、進行中の街区でつくられているものは、あくまでもハード面。これから住民の手により、つながりや対話といったソフト面がどんどん生まれてコミュニティを協創していくのだと思うと、3年後、5年後が待ち遠しく感じられます。
ニセコミライという壮大なプロジェクトが目指すまちづくりーー。
それは、新しい挑戦に尻込みしないこと。そして未来へつなげていくために、人と人とが対話を重ねていくことです。

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